仙台育英エース、涙とまらず 県内での敗戦は4年ぶり
2021年7月17日19時06分 朝日新聞デジタル
(17日、高校野球宮城大会 仙台商3-2仙台育英)
梅雨が明けたばかりで、気温が30度近くまで上がった日だった。じりじりとした太陽に汗が噴き出す。
この夏の大会、初めて登板した仙台育英のエース伊藤樹(たつき)君(3年)は、まだ体が暑さに慣れていない感じがしていた。それでも「きょうが山場だな」と気を引き締めて、先発に臨んだ。
この日の立ち上がり。最速149キロの直球はいつも通り走っていた。だが、多彩なはずの変化球の制球が甘い。一方の仙台商打線はベース寄りに立って、短く持ったバットをコンパクトに振ってきていた。
打者2巡目に入る三回、押し出しの四球や犠飛で2点を失った。高めに浮いたスライダーや甘い直球が狙われていた。五回にも四球を出し、2死二塁となったところで降板。救援に「あと頼むな」と笑顔を見せたが、悔しさとふがいなさでいっぱいだった。
今春の選抜で8強入りした原動力だ。1年の夏からチームの主力として登板し、苦しい場面でも仲間に救われてきた。
だからベンチに下がってからも献身的だった。守備を終えて戻ってくる仲間をベンチ前で迎え、打席の仲間には身を乗り出して声を送った。
八回の1死満塁、チームは内野ゴロや相手守備の乱れで1点差に迫った。
2017年の夏大会以来、県内の公式戦で負けなしだ。絶対に逆転できる。そして最後の夏こそ、みんなで全国制覇を――。
そう信じていた。
ゲームセットになり、ベンチから出てくるときにはもう涙が止まらなかった。それでも、整列後に一礼をし終えると、仙台商のエース斎賢矢君(3年)の元へかけよった。
「甲子園、行ってくれよ」。春夏合わせて3度経験した夢のマウンドだ。斎君の肩をたたいて、夢を託した。そしてまた、グラウンドに泣き崩れた。(近藤咲子)