部を去った親友へ「見たかー、俺の最後」 もう怖くない
2021年7月17日13時13分 朝日新聞デジタル
(16日、高校野球兵庫大会 甲南5-1神戸鈴蘭台)
七回裏、1死一塁の場面で、一、二塁間にライナーが飛んだ。神戸鈴蘭台の二塁手、鈴木隆盛君(3年)は左手を横に伸ばしてキャッチし、すばやく一塁へ送球。併殺を完成させると、「よしっ」と右手のこぶしを小さく突き上げた。
もう打球は怖くなかった。この試合はノーエラー。親友の分も楽しんだ。
中学は中堅手だったが、硬球に変わった高校から二塁手に転向した。内野特有の速い打球が正面に飛んでくると、怖くて足が止まってミスすることがあった。
そんな時に一緒に練習してくれたのが、当時一塁を守っていた田道侑磨(ゆうま)君(3年)だった。
「基本からやろう」。腰を落として基本の捕球姿勢をつくり、相手が投げた球を捕球する。納得いくまで交代しながら繰り返した。「腰浮いてるで」。ノック中も互いの守備をチェックした。
新チームではともにレギュラーに。昨秋の大会はともにグラウンドに立ち、エラーの数も減った。
でも、進学のこともあり、田道君は大会後、チームを去った。ずっと一緒に頑張ってきた親友の言葉が欲しかった。「何か言って」。数日後、文字に残したくてLINEで頼んだ。すぐに返事がきた。
《エラーすんなよ》
短かったけど、思い出が一気によみがえってきた。「やらなあかん」。親友の分までも。
高校最後の夏。この試合の前夜、授業で応援には来られない田道君から長文のLINEメッセージも届いた。「3年間やりきったお前は立派だ。頑張ってこい」という内容だった。
親友との思い出を振り返ると、涙ぐみ、声を震わせてしまう。最終回。1死一塁で打席が回ってきた。
「3年間の思いを全部ぶつけよう」。5球目。低めの直球を振り抜くと、打球は三遊間を抜けていった。一塁へ駆け抜けながら、こう思った。
「田道見たかー、俺の最後」(西田有里)