7月13日の高校野球 熊本
2021年7月14日04時00分 朝日新聞デジタル
梅雨が明けた。夏本番が訪れた13日、大会は2球場で計6試合があった。甲佐・御船・矢部・高森の連合チームが初戦を突破。昨夏の豪雨で部員が被災した球磨工と人吉が2回戦に進んだ。
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三回裏。鹿本商工のエース福田蓮(3年)は、三遊間にはね返された打球を目で追った。5点目を奪われた。汗が流れる。ベンチから「全然大丈夫」と仲間の声が飛んだ。
自分を落ち着かせようと、左手のグラブを見た。先輩から譲られたものだ。
1年の夏、当時の3年生が引退して部員は同級生の竹下巧海と2人になった。監督らのノックを受け、ひたすら走る日々。体力がつき、1年生の長距離走大会で2人は校内1、2位を占めた。
2年になる昨春、ピッチング練習を始めた福田に、卒業生が自分が使っていた投手用グラブを渡した。「2人だけど、これからの鹿本商工を頼む」。その思いを受け止めて、トレーニングに励んだ。監督を相手に投げ込みも続け、110キロだった球速は120キロ台になった。
この日の一、二回は直球にカーブを織り交ぜ、一人の走者も許さなかった。しかし、三回から制球に違和感を感じ始めた。打者一巡の猛攻をなんとか切り、硬い表情でベンチに戻った。
ムードを変えてくれたのは、昨年以降に入部した後輩たちだった。五回、先頭の2年生が二塁打で出塁し、進塁打と安打でつなぎ1点をもぎ取った。本塁を踏み、声を上げてベンチへ帰ってきた後輩を見て、福田は思った。「本当にすごい後輩たちだ」
その後も加点を許し、コールド負けした。「実戦経験が足りなかった」と福田は悔いた。でも、この日の後輩たちを見ていて、2人だった野球部が再び軌道に乗ってきたとも感じた。「後輩たちはもっとやってくれる」。グラブを託すつもりだ。(屋代良樹)