7月10日の高校野球 群馬
群馬大会は10日、開幕した。上毛新聞敷島球場で開会式が行われ、1回戦計5試合が同球場と高崎城南球場、小倉クラッチ・スタジアムであった。シードの太田は開会式直後の試合で明和県央を破ったほか、市前橋は終盤に好機を生かし逆転勝ち。統合して4月に開校した桐生清桜は渋川に競り負け、夏の初勝利はならなかった。11、12の両日はそれぞれ1回戦8試合ずつが予定されている。決勝は27日の予定。
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明和県央の中軸を担ってきた2人の3年生、主将の萩原晃来と田村心之介にとって、高校最後の夏の役割は「代打」だった。
右翼手の萩原は1年秋からレギュラーで、現在のチームでは主に3番を務めてきた。塩原元気監督は「しっかりと自分の意見を相手に伝えられるし、周りが見えている」との理由から主将に任命した。一塁手の田村は2年秋から不動の4番。身長183センチ、体重87キロの体格を生かした長打力が売りだ。
ところが2人はともに今春の試合中、ひざの半月板を損傷する大けがを負った。田村が3月中旬、萩原が4月上旬。いずれも試合中の走塁時だった。
2人とも手術を受け、1カ月以上松葉杖なしでは歩けなかった。萩原は「風呂に入るなど日常生活もままならない状態。気持ちが切れそうになったこともあった」と振り返る。
練習には松葉杖をついて参加し、座ったままで行う上半身の筋力トレーニングに励んだ。「俺たち、夏に間に合うのかな」と不安な気持ちを分かち合った。田村は「萩原がいたからくさらずに続けられた」。
6月下旬、打撃練習を再開できるまでになったが、試合で守備をこなせるまでにはならなかった。それでも塩原監督は田村に「3」を、萩原に「9」をつけてもらうと決めた。
大会出場も危ぶまれたが、何とか打席に立てるまで回復。塩原監督は「試合のここぞという場面で、代打として出てもらうと決めていた」と話す。大会直前、2人にもその意向を伝えていた。
今夏、最初で最後の打席は、太田戦の七回に回ってきた。六回を終え0―9。3点を取らなければコールド負けとなる状況だった。
先に打席に立ったのは田村。仲間に「打ってくるから」と告げて臨んだが、力みから投ゴロに。痛みをこらえながら、懸命に一塁へ全力で走った。
2死となり、萩原が打席へ。4球目を詰まらせ中飛に。最後の打者となった。「けがで迷惑をかけた仲間に、少しでも恩返しがしたかった」と、試合後は涙が止まらなかった。
塩原監督は萩原について「けがをしても声出しを怠らず、チームの雰囲気を作ってくれた。選手宣誓はそのごほうびなのかもしれない」とたたえた。(中村瞬)