心臓手術から復帰・マネジャーで一心発起 球児たちの夏
2021年7月16日16時10分 朝日新聞デジタル
第103回全国高校野球選手権富山大会は10日から試合が始まった。3年生にとって、すべてを出し切る最後の舞台だ。大会に臨む2人の選手を紹介する。
■富山工・林勇作君(3年)
「考えてプレーしとるんか」。富山工のグラウンドにノッカーを務める林勇作君(3年)の叱声(しっせい)が響きわたる。同級生にも遠慮はない。「チームを強くすることが自分の役割」。3年間、マネジャーとしてチームを支えてきた。
中学から野球を始め、外野手としてプレー。高校でも続けようと春休みから富山工の練習に参加した。だが、外野からの返球がうまくいかない。ワンバウンドになったり、すっぽ抜けたり。投げようとすると腕に違和感が走った。「これはやばい」と思ったものの、原因が分からないまま時が過ぎた。
富山工は甲子園の出場経験もある強豪。同じ学年で20人が入部した。「このままだと試合に出られない」。入部から1カ月後、「退部」が頭をよぎった。だが、当時の顧問から「マネジャーをしながら、復帰の道を探ってみては」と諭され、踏みとどまった。
少しグラウンドから離れると、見える景色が違った。練習に臨む部員の姿勢が気になった。「流れ作業のようになっている」。富山工は一昨年は1勝、昨夏の独自大会では初戦敗退。先輩の姿を見るたびに、「もっとやれたんじゃないか」と感じていた。
最後の夏に臨む新チームになってから、気になった点は厳しく指摘すると決めた。練習メニューも弱点を補えるよう考案。試合で外角の変化球を引っかける選手が多ければ、逆方向に打つ練習を採り入れるなど工夫した。最初は戸惑った仲間も受け入れてくれるようになり、金岡俊祐主将は「『なにくそ』とみんな発奮している。チームに刺激を与えてくれている」と話す。
林君も手応えを感じている。昨秋の県大会では、九回裏に5点差を追いつく粘りを見せ、春の県大会では強豪の高岡商相手に接戦を演じた。
林君は今大会、記録員としてベンチ入りする予定だ。「このチームはまだ強くなれる」。グラウンドで声を出し続ける。
■高岡龍谷・北村隼規(としき)君(3年)
放課後の高岡龍谷のグラウンド。三塁でノックを受ける北村隼規(としき)君(3年)が、軽快に打球をさばく。2年前に心臓手術を受け、半年ほどプレーできなかった期間がある。
生まれつき心臓が悪かったが、日常生活に支障はなかった。友人に誘われ、小学4年の時に野球を始めた。俊足を生かし、中学に入っても投手や内野手として活躍した。
中2の秋ごろ、定期検査で病状が進行していることが判明。成人後の予定だった手術を前倒しで受ける必要が生じた。日程は、高1の夏休みと決まった。
夏の大会が終わった8月、手術を受けた。手術はうまくいったが、入院していた1カ月、「もう野球ができないのでは」と何度も不安に襲われた。
支えは、野球部の同級生から届くLINE(ライン)だった。練習メニューなどをこまめに教えてくれ、必ず最後に「頑張れよ」と励ましのメッセージが添えてあった。
だが、退院後も家と学校を往復する日々が続いた。傷口が開くため、軽い素振りやキャッチボールもできない。復帰できたのは12月だった。喜んでバットを握ったが、最初はまともに振ることもできなかった。1月に入り、ようやくボールを握ることができた。
翌年の春、練習試合に遊撃手で出場した。緊張でガチガチだったが、最初のゴロをうまくさばいて、思った。「あきらめないで良かった」
練習中、いまも息苦しくなることがある。だが、プレーできる喜びは大きい。「一つずつアウトを取って勝利をつかみたい」。今大会は、三塁手として出場する予定だ。(井潟克弘)