「弟のミットへ思い切り投げる」 本気の口論を糧に夏へ
2021年7月8日15時05分 朝日新聞デジタル
岡山御津の選手は現在11人。春に1年生が入るまでは9人を割り込んでいた。「控えの球児らの晴れ舞台に」と創設された桃太郎リーグに参加したのは、真剣勝負の緊張感を1試合でも多く経験したい、との狙いからだ。
昨秋の県大会地区予選はぎりぎりの人数で挑み、初戦でコールド負け。1年生が入った直後の春の予選も、大安寺に5回コールド、3―23で大敗した。
大安寺戦に先発した和泉屋誠(いずみやまこと)君(3年)は歯がゆかった。中学はバドミントン部だったが、高校では野球部へ。昨夏以降、安定感を買われて投手もしている。
だがこの日は四死球で走者を出し、甘い球を打たれることの繰り返し。降板後に登板した3人は、自身が作った悪い流れを止められなかった。
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桃太郎リーグの試合があったのはこの1カ月後の5月9日。相手は2年生が主体の岡山工だった。
先発の田渕隼斗君(3年)が好投し、試合は岡山御津のペースで進んだ。打線は2回の4連打などで六回までに7―0。和泉屋君は満を持して七回から登板した。
だが雰囲気にのまれていた。最初の打者は打ち取ったが、次打者にはすっぽ抜けて死球。適時打を浴びてあっという間に失点した。八回は本塁打も浴びた。勝ちはしたが、四死球でリズムを崩す課題が自分にのしかかり、後味は悪かった。
試合後、捕手で弟の慶君(1年)にも強く当たってしまった。「(ミットの)構えが高い」「しっかり捕ってくれ」。冷静な慶君から「試合中に言ってほしい」と反論されると、返す言葉がなかった。
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桃太郎リーグを県内の監督有志が発足させた背景には、部員が少ないチームの試合の機会を増やしたいという目的もある。試合経験を通じてしか得られない感覚があるからだ。
岡山御津でも岡山工戦後の「本音」でのやりとりを通じ、次第にチームに一体感が生まれた。和泉屋君は以前より思い切り投げ込めるようになったと感じる。
岡山御津は10日の岡山大会開幕試合で、瀬戸と対戦する。小林亮太監督(27)は和泉屋君に背番号「1」を託した。「慶のミットへ思い切り投げ込む」。桃太郎リーグの成果を示したいと思っている。(雨宮徹)