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チームの要、突然の守備不安 それでも 

2021年7月7日09時00分 朝日新聞デジタル

 夏の大会が迫った7月上旬、仙台城南高校野球部のノック練習は、一つの連係プレーで熱を帯びた。

 二塁を守っていた伊藤理壱(りいち)君(3年)が、一塁側に走り出した。中飛からのそれた返球を追っていた。

 懸命に腕を伸ばして捕球すると、その勢いを殺さず一塁手にトス。

 1カ月ぶりの併殺プレーになった。

 「ナイスプレー」。歓声が上がり、周囲は沸いた。左翼手の菊池新汰君(3年)が大声で叫んだ。

 「いい時の理壱が戻ってきた!」

     ◎

 伊藤君は昨夏のミスをぬぐえずにいる。

 独自大会3回戦の序盤だった。内野ゴロをさばいた併殺狙いのプレーで、一塁に投げた球が大きく左に外れてフェンスにあたった。

 「え、なんで」

 その後、ピンチで捕球ミスをし、さらに同じような送球ミスを重ねた。チームは2―11と惨敗。

 1年秋からスタメン入りし、走攻守そろうチームの中核。その自負があっただけにショックだった。喜ぶ相手ベンチを見て、しばらく何も考えられなかった。

 先輩と監督に泣いて謝った。「お前のせいじゃない」といくら言われても、その言葉を受け入れられなかった。

 それから、新チームでミスを連発するようになった。一塁に投げると、球はスタンドに向かっていく。

 送球の瞬間、夏の光景が頭をよぎった。蒸し暑い仙台市民球場。一塁で構えていた先輩の、驚いたような表情――。

 頭が真っ白になり、指にうまく力が入らなくなる。「今までどうやって投げてたんだっけ」

 エースナンバーをもらったのに、制球力も失った。

     ◎

 送球が山なりになり、一塁まで届かない時もあった。外野で見ていた菊池君は「あいつ、なんで適当に投げてんだ」といらだった。

 練習後の部室で、他の部員が「あれ、イップスだろ」と言う。当たり前だった動作が突然、できなくなる。ミスは決まって二塁から一塁への送球で起きた。

 菊池君にとって、入学当初から「絶対的な」存在だった。グラウンドにいるだけで練習に気合が入り、「理壱がいれば強豪に勝てる」とさえ思えた。なのに、「理壱にセカンドを守らせるのは怖い」と感じるようになった。

 でも、伊藤君は落ち込むそぶりを見せず、声を張り上げている。その様子を見ると、「思うように投げられなくて悔しいだろうな」と同情した。

 そこで、ひらめいた。

 「夏の弱さ!」

 送球ミスのたび、外野からヤジを飛ばすことにした。夏の惨敗を笑い飛ばせないかと悩んだ末の、単なる思いつきだ。

 一方の伊藤君は、ミスを責められていると感じて、内心傷ついた。だが、よく聞くと、「リラックスしろ」「考え過ぎんな」といったアドバイスが必ず付いてきた。

 気遣ってくれているんだと分かった。それで、深呼吸し、丁寧さを意識して、投げられるようになった。今では「うるせえ!」と笑える。

     ◎

 「また大事なとこでミスするだろうな、とみんな思っていますよ」と角晃司監督(61)も言う。

 守備に不安はある。それでも、懸命に乗り越えようともがく伊藤君を見続けてきた。菊池君は「ミスはカバーできないチーム全員の責任。理壱に任せたい」と腹をくくった。

 1カ月ぶりの併殺プレーでチームは勢いづいた。ノックを終えた伊藤君の背中に、「ナイスプレー! やっぱお前がセカンドだと盛り上がるな」と叫んだ。小さな照れ笑いが返ってきた。(近藤咲子)

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