3年生2人、初の単独チームで出場 「今が一番楽しい」
「岐阜で一番下手なんだから、怖いもんなしだ。もっと積極的に動け」
東濃(岐阜県御嵩町)のグラウンドで6月末にあった練習試合中に、井戸智弘監督(30)から厳しい声が飛んだ。
結局この試合では、富田(岐阜市)を相手に1点も取れず大敗したが、主将の前田蒼太君(3年)の表情に暗さはなかった。「仲間と一緒に学校を背負って試合ができることが幸せなんで」
入部当初、先輩はおらず部員は3人だけ。一昨年の夏は、山県、羽島の両校と連合チームで出場したが、初戦で敗退した。一緒に練習できる機会が多くなく、連係不足による送球ミスが続いた。プレーに自信が持てず、守りでは、他校の選手に遠慮して譲り合ってしまい、落球してしまうこともあった。
一つのチームとして単独で出場したい――。そんな思いが強くなった。ところが、1年の終わりに部員1人が辞めてしまった。「連合チームでやるのはいや。少人数では、やれる練習が少なくて意味がない」。そう言われると納得してしまい、引き留められなかった。副主将の安江太希君(3年)と2人だけになった。
昨年4月、新入生を迎える季節が来た。だが、恒例だった新入生向けの部活動紹介のイベントが、コロナ禍で中止になった。「野球経験ある? やってみたくない?」。入学式翌日、校舎の玄関で声をかけたが、入部した新入生は大城泰政君(2年)だけだった。
昨夏の独自大会は出場を見送った。部員3人で何度も話し合い、「次の夏に懸けよう。出場しないぶん、自分たちだけでできる練習に没頭しよう」と決めた。
守備練習では当時部長だった井戸監督にノックをしてもらい、本来は9人で守る位置を3人で守った。打撃練習は人が足りず、3人のうち1人は素振り、2人はトス打撃。体力的にも精神的にもつらかったが、安江君と大城君の頑張りを見て、じっと耐えた。
2度目の勧誘をすることになった今春、井戸監督につくってもらったちらしを新入生全員に配った。4月以降、新入生6人のほか、一度は辞めた3年生らが加わってくれた。今ではマネジャーを含め、計14人となった。
女子部員の小木曽結日(ゆうひ)さん(1年)は、中学ではソフトボール部に所属しており、ちらしをみて興味を持った。「皆の声出しが元気で楽しい。変化球の打ち方を練習中です」。ソフトテニス部と兼部する外野手の中山鷹斗君(3年)は、前田君らに誘われて5月に野球を始めた。皆優しく教えてくれるといい、「まだ投球をバットに当てたことがない。何とか大会までに打てるようになりたい」。
前田君は主将として、初心者には基本を丁寧に教え、部員がミスしても責めず、励ますことを心がけている。「ミスを恐れずに、全力でプレーできるチームにしたい」
東濃が3年ぶりの単独出場となる今夏の目標は、まず1勝だ。野球を始めた小3以来、出場した公式戦で勝ったことがなく、達成すれば初勝利になる。
野球は、高校で終わりにしようと考えている。「最高の仲間と一緒に、野球人生、最初で最後の勝利をめざす。今が一番楽しい」。目を輝かせながら、そう意気込んだ。(佐藤瑞季)