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報徳学園の学生コーチ、決意の転向 毎朝記すデイブック

2021年7月13日17時15分 朝日新聞デジタル

 「日本一になるために、隙の無いチームをつくろう」

 春夏あわせて36回の甲子園出場を誇る報徳学園高校(兵庫県西宮市)。春の県大会は準々決勝で敗れた。2日後の5月5日、柏谷星太朗君(3年)は全3年生約50人を前に、呼びかけた。

 この日から学生コーチに転向した。

 最後の夏を目前にして、選手としてグラウンドに立てなくなった寂しさはある。それでも、あの頃の自分と交わした約束を守りたかった。

 翌朝。自宅を出る前、いつものようにノートに決意を書いた。この日からずっと書き続ける言葉がある。

     ◎

 「これ、地元のチームやで」。2014年春の選抜甲子園。テレビに映った報徳学園について、母が教えてくれた。小学5年になる直前だった。

 少年野球のコーチに聞いてみた。派手ではないが、小技を使って泥臭くプレーするチーム。体が小さな自分でも活躍できるかもしれない。「報徳で野球がしたい、甲子園に行きたい」

 まずは報徳学園中学に入った。もちろん野球部へ。軟式のチームでは、遊撃手のレギュラーだった。

 副キャプテンとしてチームも牽引(けんいん)した。前に出て意見を言ったり、人をまとめたりするのは好き。話し合いの沈黙には、むずむずしてしまう。「それならば、自分がはじめから前へ」。クラスでは委員長も務めた。

 高校で硬式のチームへ。やはり甲子園常連校。周りの選手のレベルに圧倒された。自分とはスピードもパワーも違う。主力のAチームに入れず、Bチームに。

 1年の夏にあごの骨が折れてしまい、完治したのは2年になってから。おのずと出場の機会は限られた。

 試合はスタンドから見つめるだけ。もちろん甲子園に出て欲しい気持ちはある。ただ、そこに自分の姿はない。どうしても応援に気持ちが入らない。そんな自分が後ろめたかった。

 同じ思いの選手が、多かったのかもしれない。特に自分たちは、おとなしい学年とされてきた。

 例えば、AとB両チームの合同練習。自分のいるBチームの選手は、Aチームの選手にノックを受ける順番を譲ってしまう。Aチームの選手がミスしても何も言えない。

 気持ちの溝を感じていた。でも、誰も何も言わない。そういう自分も、どこか、人ごとだったけれど。

     ◎

 そのまま冬を越え、春の県大会は8強止まり。

 敗戦翌日の練習は、走り込みだった。

 敗北の意味をかみしめる練習と受け止めていた。周りを見た。「みんな、わかっているだろうか」

 夏の甲子園へと続く兵庫大会は、2カ月後。練習後、どう立て直していくか、3年生全員が集まった。それでも、主将や副主将以外は口をとざしたまま。

 帰宅して、1人考えた。

 このまま練習をこなして、高校野球を終えようか。でも、中途半端な気持ちを引きずるのは嫌だった。

 「自分の夢は何か」「やっぱり報徳で甲子園に行きたいんじゃないのか」

 チームが甲子園への切符をつかむために。自分の力を最大限発揮できるポジションとは。「どこかで決断しないと、明日も同じことになる」

 翌日、顧問に告げた。「選手をやめて、学生コーチに転向したい」。選手への未練は断ち切った。

     ◎

 いつも持ち歩くカバンには、「Day(デイ) Book(ブック)」と名付けたA5のノートが入っている。

 昨夏から毎朝、日々の決意を書いているノート。コーチ転向の翌朝、初めて書いた言葉がある。自分で決めた道を、自分の力で歩むという思いを込めた。

 《責任》

 そう書くと、選手をやめる寂しさは、前向きな気持ちに変わった。気持ちも引き締まった。

 例えば、《5月28日 ・信念 ・責任 ・自分と向き合う》。いくつか書く言葉のうち、責任は必ず入っているという。

 「Day Book」は一週間分書いたら、そのページは破って捨てる。過去には縛られたくない。この先どんなことを書いているかも分からない。でも「責任」は書き続けるだろう。報徳の夏が続く限り。(西田有里)

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