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「まっすぐで来いや」「おう」塁審が見たあの夏のマー君

2021年6月9日19時30分

 2005年7月24日、最高気温25・3度。札幌市は夏日だった。札幌円山球場には2万3千人の大観衆が詰めかけ、周囲の道路は渋滞するほどだった。

 球場では、第87回全国高校野球選手権南北海道大会の決勝が行われていた。

 駒大苫小牧は前年夏の甲子園を制し、この年も2年生の田中将大投手らの活躍で、南北海道大会の決勝まで勝ち進んできた。対するのは小樽市の名門、北照だった。

 一塁の塁審として試合を見守っていたのが鳥谷部好夫さん(66)だ。今でも忘れられない場面がある。

 5―1と駒大苫小牧リードで迎えた九回表、北照の攻撃だった。マウンドには八回から登板した田中投手。北照はまず1点を返し、2死一塁で打席に立ったのが、その後巨人へ入団する加登脇卓真選手だった。

 鳥谷部さんは一塁ベースの近くで本塁側を見つめていた。球場は観衆のざわめきと、ブラスバンドの演奏で、大きな喧噪(けんそう)に包まれていた。「ブラスバンドの演奏が圧巻で、球場が揺れているようだった」。その喧噪のすきまを縫うように聞こえてきたやりとりがあった。

 「まっすぐで来いやあ!」。打席に入った京都府出身の加登脇選手が大きく口を開き、関西なまりでマウンドの田中投手に向かって叫んでいた。

 同じ関西の兵庫県出身の田中投手は「おう!」と答え、にやりと笑った。

 1球目は外角へのボール。そして2球目。内角高めの直球だった。左打ちの加登脇選手が振り抜いた当たりは、右翼へ大きく飛んだ。「どこまで飛ぶんだ」。白球は空を大きく渡り、芝生のスタンド席を超えて場外へ消えた。

 「ホームラン!」。鳥谷部さんはボールの行方を確認すると、大きく腕を回した。

 反撃は及ばず北照は1点差で敗退したが、北海道の高校野球ファンの間では「伝説」と呼ばれる名試合となった。この年、駒大苫小牧は前年に続き夏の甲子園を制して2連覇を果たした。

 「こいつら、おもしれえなあって思いました」。16年前を鳥谷部さんは、そう振り返る。決勝という大舞台でも、彼らが野球の勝負を楽しんでいるのが伝わってきた。

 鳥谷部さんの人生も、ずっと野球とともにあった。千葉県で育ち、野球は「いつ始めたのか分からない」。小学生のころには友人たちと空き地の原っぱで白球を投げ合っていた。日大一高、法政大でプレー。法政大の一つ下の後輩に江川卓氏がいる。

 卒業後、地元の恩師である我孫子高の元監督・荒井致徳さんに指導者の道へと導かれた。荒井さんの自宅庭に置かれたプレハブに住み、同校でコーチをしたのち、25歳で新設校だった市立柏の監督に就任。その後北海道旭川市の旭川実業高から誘いを受け、身重の妻を連れ旭川へ渡った。

 札幌市の札幌南陵高の部長になってからは、道高野連札幌支部審判部で幹事や研修委員長を歴任してきた。判断ひとつで球児たちの野球人生を左右するプレッシャーを感じつつ、多くの試合で審判を務めてきた。その功績が評価され、今月、日本高校野球連盟などが贈る「育成功労賞」を受賞した。

 今でも公式戦で審判を務める。毎朝1時間の散歩と、もう1時間の筋力トレーニングを欠かさない。「子どもたちのスピードについていけなくなるまでは」グラウンドに立ち続けたい。今夏も札幌支部大会で審判服に身を包む予定だ。(川村さくら)

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