スポブルアプリをダウンロードしよう

  • Sportsbull Android App
  • Sportsbull iOs App

すべて無料のスポーツニュース&動画アプリの決定版!

QRコードを読み込んでダウンロード

Sportsbull QRCode

卒業までガチで続けた全員練習 球児と監督が得たものは

2021年4月22日11時30分

 北海道十勝地方の幕別町にある江陵高校はこの春、閉校した。野球部の最後の選手となった20人は、3月1日に卒業式を終えたあと、帯広市内のホテルで保護者らと、飲食なしのささやかな集会を開いた。

 ネクタイをびしっと締めた監督の谷本献悟さん(40)は、最後のあいさつで選手たちに語りかけた。「高校野球を最後の最後までやりきったお前たちは、本当にすばらしい選手です。学校はなくなるけど、お前たちの母校は俺です。いつでも連絡ください。3年間ありがとうございました」

 谷本さんが「最後の最後まで」と強調したのは理由がある。部員たちは夏の大会が終わったあとも、卒業式の前日までチーム練習を続けたからだ。

 卒業後も進学先などで野球を続ける3年生が、夏の大会後も自主練習を続けることは、他校でも一般的だ。でも、3年生全員が「引退」せずに、チーム練習を続けるのは異例だ。

 北海道の冬は雪に覆われるが、雪が降る前までは練習試合をこなし、冬場は素振りやランニング、ウェートトレーニングをこなした。現役の時と同じく手を抜かず、最後まで1人も欠けることはなかった。

■3年後に閉校、でも進学した

 選手たちの入学時には、同校の閉校は決まっていた。それでも「球道即人道」を掲げる谷本監督の下で野球をしたいと、同校への進学を決めた。

 最後の年となった昨年の夏、選手たちは「最初で最後の甲子園出場」を目指し意気込んでいたが、新型コロナウイルスの影響で夏の選手権大会は中止になった。

 それでも、開催が決まった独自大会での優勝を「俺たちの甲子園」と位置づけ、練習に力を注いだ。迎えた夏は十勝地区の代表決定戦まで進んだが、甲子園にも出場経験のある白樺学園に敗れ、同校の公式戦は終わった。

 だが部員たちは、大会前から夏の大会終了後も練習することを決めていた。「個々の力を伸ばしていこう」と誓い合っていた。後輩がいないので、グラウンドが自由に使えることもあった。

 敗戦の翌日も、全員がグラウンドに集合した。しかし、実は「みんな何もできなかった」と主将の尾崎太郎さん(18)は振り返る。

 目に見える目標がなくなり、就職や進学と各選手の進路も違う。「何のためにやっているのか」。選手たちをそんな意識が襲った。「休みがほしい」と言う選手、練習後片付けもせずにスマホでゲームを始める選手……。チームがバラバラになりかけたこともあった。

 そんな選手たちに、監督の谷本さんは語りかけた。「社会に出たら、『これは自分の仕事じゃない』からやらないとか、『目標がない』からやらないでは済まない時がある。やりきることが、人生の強みになる」。選手たちはそんなアドバイスを受け、何度もミーティングで話し合い、それぞれに気持ちを高めていった。

■「江陵不滅」の横断幕

 晩秋までは毎週末、他校との練習試合を続けた。実力のある3年生が残っている江陵は、下級生で構成する他校にとってはレベルの高い試合が望める格好の練習相手だった。

 試合では閉校になる江陵に対し、相手チームが「江陵不滅」「今までありがとう」といった横断幕を掲げ、励ましてくれることもあった。選手たちは「自分たちが他の人たちの力になっている」と感じ、それが大きな励みになったという。

 主将の尾崎さんは「今やるべきことが何かを考えて行動することを学んだ。これからの人生に必ず生きると思う。江陵高校に来て本当によかった」と話す。むしろ、大会後の方が学ぶことが多かったという。尾崎さんは青森県の大学で野球を続ける。

■監督「貫けたことが財産だ」

 谷本さんにとっても、夏からの半年間はこれまでにない経験だった。それだけに考えることも多かったという。

 「目標がなくなった時にどうするのか。目標がなくなっても次の目標を見つけるため、いかに熱く生きられるかが人生だ」

 「選手たちは本当によくやったと思う。貫けたことが財産。選手権大会の中止や閉校などさみしいこともあったが、コロナ世代だから味わえたこともある。まさに、グラウンドは人生の縮図です」

 一方で、これまで送り出してきた引退後の3年生に、自分がいかに目を向けていなかったかとも感じている。

 谷本さんは4月から、釧路市にある武修館高校に家庭科教諭として勤務している。野球部は甲子園出場経験もあり、部の部長として小林正人監督を支える。「これまで選手に『甲子園に行き、監督を男にする』とさんざん言われてきたが、今度は小林監督を男にするため力をつくしたい」と話している。(中沢滋人)

関連記事

アクセスランキング

注目動画

一覧へ