仙台育英ベンチ、ボールに卒業生の名前 2年分の甲子園

2021年3月29日11時34分

 第9日の29日に登場した仙台育英(宮城)のベンチにはボールが二つ、置かれている。昨春の選抜大会がコロナ禍で中止になり、出場できなかった卒業生40人の名がびっしり書き込まれたものだ。先輩たちの思いも背負い、選手たちは「2年分」の甲子園を駆けた。

 仙台育英は昨春の選抜大会に3年ぶりの出場を決めたが、新型コロナウイルスの影響で大会が中止に。5月20日には夏の選手権大会の中止も決まった。その夜、主将だった田中祥都(しょうと)さん(18)はオンラインミーティングで後輩たちに言った。「日本一になってくれ」

 春夏連続の甲子園中止。木村航大捕手(3年)の父親で、昨秋から後援会長の木村敬一さん(49)は、卒業生たちにかける言葉が見つからなかった。今回の選抜への出場が決まった後、卒業生の名前入りのボールを今のチームに届けることを思いついた。

 2月28日、卒業式。記念撮影で集まる卒業生にボールとペンを渡し、「名前を書いて。甲子園に持って行きたい」と頼んだ。卒業生たちは「ありがとうございます」と言い、笑顔で一人ずつ名前を書いてくれた。「応援席に置いてほしい? それともベンチ?」と問うと、卒業生たちは口をそろえた。「ベンチがいい」

 ボールはプラスチックのケースに入れた。チームが甲子園に向けた遠征で仙台を発つ3月6日。木村さんは空港の保安検査場の前で、エースの伊藤樹投手(3年)に「ベンチに持ってって」と託した。

 伊藤投手は驚いた。先輩たちの思いを感じた。「自分たちだけの大会じゃないんだな」。先輩に「ボールを置いてがんばります」とLINE(ライン)を送った。

 甲子園に昨夏、選抜出場決定校が呼ばれた交流試合でマウンドに立ち、先輩たちと一緒に最後の夏を戦った。無観客で1試合だけの甲子園。試合は敗れたが、先輩たちは達成感にあふれているように見えた。その姿が逆に、「次の試合があれば悔しがっていたはずなのに」と歯がゆかった。

 卒業生で学生コーチだった菅野友雅さん(18)は「試合中に見て頑張ろうと思ってほしい」とボールに名前をつづった。夏の選手権大会中止が決まった後、後輩たちは「野球に集中して下さい」と練習でサポート役に徹し、昨夏の宮城県独自大会は3年生だけで試合をさせてくれた。「早く代替わりをしたかっただろうに、気遣ってくれた」

 今回の選抜大会。開会式で島貫丞(じょう)主将(3年)は「2年分の甲子園。一投一打に多くの思いを込めてプレーすることを誓います」と選手宣誓した。「2年分」の言葉はチームで話し合って入れたと聞いた。「自分たちの思いも込めてくれた」

 試合中、ボールはベンチの後方の席にある。伊藤投手は見る度に、甲子園中止の中、練習に汗を流していた先輩の姿を思い出す。「劣勢の時にも、これを見ると先輩から学んだ前向きさを思い出す」

 初戦、2回戦と勝ち上がり、臨んだ準々決勝の天理(奈良)戦。「先輩の分も頂点へ」の思いは届かなかった。菅野さんは大学のテレビで試合を見守った。「卒業生みんなが応援した。よく頑張った」(近藤咲子)

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