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「兄の分まで」思いつないだバット、甲子園に快音響く

2021年3月24日16時26分

 兄の分まで――。バットに思いを込め、めいっぱい振った。

 第93回選抜高校野球大会は24日、第5日の1回戦3試合があり、初出場同士の対戦となった柴田(宮城)―京都国際(京都)は、延長十回の末に、5―4で京都国際が制した。

 「一生懸命プレーした。大舞台で頑張れました」。敗れた柴田の三塁手、横山隼翔(はやと)(3年)は胸を張った。

 2点を追う十回。1点を返し、なお2死一、三塁で打席が回ってきた。ゲームセットかと思いきや、目の前の打者が敵失で出て巡ってきた同点機。それまで3安打していた2番打者は、おろしたての銀色のバットをぎゅっと握って、右打席に向かった。

 そのバットとは「SSKのスカイビート」。芯に当たれば、キーンと甲高い音がするのが特徴だ。2月上旬、「これで甲子園に快音を響かせてくれ」と1学年上の兄航汰さんからもらったものだ。兄はお年玉を取り崩し、スポーツ店の店員に少し値切ってもらってプレゼントしてくれた。

 カウント2ボール、1ストライクから、快音は響いた。だが、強い打球だったが遊撃手の守備範囲。一塁へ全力で駆けたが最後の打者になった。「兄の分も頑張ろうと思って臨んだので悔しい」。天を仰いだ。

 その様子を、航汰さんは一塁側のアルプス席から両手を握りしめながら、見つめていた。「ずっとドキドキしていた。素晴らしい試合で、隼翔がかっこよかった。感動をありがとう、と言いたい」。目には涙が浮かんでいた。

 10年前の3月11日。2人は石巻市の小学1、2年生だった。学校から帰った直後、海から1・5キロ離れた自宅に津波が押し寄せてきた。陸橋に駆け上がり、5年生の姉あみさんと、きょうだいで体を寄せ合って一夜を明かした。

 翌12日は兄弟で地元の野球チームに初練習に行くはずだった。家は全壊したが、がれきをかき分けると、居間に置いていた二つのグラブが見つかった。避難所生活を送るなか、兄とのキャッチボールが気晴らしの時間だった。

 数カ月後に練習が再開してからは、2人はずっと同じチーム。柴田では「兄弟で甲子園」をめざし、航汰さんは2年秋から主将になり、同じ内野手の隼翔はその背中を追った。

 だが、新型コロナウイルスの影響で昨年は甲子園が中止に。最後の夏は挑戦すらできずに航汰さんは引退した。「震災を経験して人を助けたいと思った」と、航汰さんは消防士をめざし4月から専門学校に通う。

 弟に託した夢。2人をつなぐバットだが、実は、「本当に甲子園で使ってくれるか不安だった」と打ち明ける。選抜大会直前の広島遠征で、隼翔は違うバットで本塁打を放っていたからだ。前夜、電話した際に言った。「無理に俺がやったバットを使わなくていいからな。振りやすいバットを使えよ」

 だが、隼翔は最初から決めていた。「兄の分も頑張る」。心とバットにそう誓って、162センチの体で力強く振り抜き、右に左に3安打を放った。そして、恥ずかしがりながらも言った。

 「兄に助けてもらって、打てたんだと思う」

 「兄弟」で臨んだ初めての春。勝利にはあと一歩届かなかったが、甲子園に響いた快音は、2人の心の中で、いつまでも色あせない。(山口裕起)

     ◇

 柴田・横山隼翔(はやと)三塁手(3年) コロナ禍で「甲子園」の挑戦権すら奪われた兄・航汰さんにもらったバットで3安打。「兄に助けてもらって、打たせてもらった。一生懸命、大舞台で頑張れたと報告したい」。被災した東日本大震災から10年目に出場。「何か震災につながっているというか、運命だと思います」

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