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練習場に今も仮設住宅 台風被災地、2人だけの野球部員

2020年10月9日09時00分

 災害ごみが撤去され、練習場として使えるようになったばかりの町民グラウンドで、被災した球児2人が汗を流している。この春、進学先に選んだのは地元・宮城県丸森町にある伊具高校。野球部員はゼロで、高校の練習場には仮設住宅。そんな状況から踏ん張ってきた思いとは――。

 「うーんしょ」。9月下旬、丸森町役場に隣接する町民グラウンドで、伊具高1年の野球部主将、長尾拓磨君(16)が打撃練習用のゲージを押していた。

 昨年の台風19号による被災で、たたみや家具などの災害ごみが高さ3メートルほどにまで仮置きされた場所だ。土を入れ替え、今年8月下旬から使えるようになった。雑草がぼうぼうで、夕方になると首にタオルを巻いた大人たちがキャッチボールを始める。

 それでも約2時間の練習を終えると「遠くまで球を飛ばせるのは気持ちいい」。交互に打席に立ったもう1人の部員、八島渉夢君(16)も「バットが振れるようになってきた」と笑った。

 当時、同町金山地区にあった長尾君の自宅は1階が泥まみれになり、付近の道路は舗装がはがれた。事前に2階に避難していたから、家族もグラブも無事だった。しばらくは家の掃除をしたり、炊き出しを食べたり。日々の生活で精いっぱいで野球どころではない。そんな矢先にニュース映像が流れた。

 数台のクレーンが伊具高の野球場に入り、土をかき出す。「仮設住宅の建設が始まりました」とのアナウンス。丸森中3年だった長尾君は「やっぱり伊具高、やばいんかな」とつぶやいた。

 進学先に迷っていた。県南の強豪校を目指そうかという思いもあったが、伊具高野球部OBの父功夫さん(57)の一言が響いた。

 「野球で丸森を盛り上げたらかっこいいんじゃないか。仮設建ったけど、部員が入ったら場所も用意してくれるでしょ」。明るい背中の押し方だった。

 70年の伝統がある野球部は2019年度から部員がおらず、休部状態だった。「伊具野球部を復活させよう」。中学野球部のチームメートだった八島君を誘った。八島君も氾濫(はんらん)や土砂崩れのあった阿武隈川沿いの耕野地区に家があり、被災生活を送っていた。

 コロナ禍の休校が明けた6月、長尾君たちの入部希望を聞いた金野公太監督(36)は「変わり者だな」と返した。挑戦が始まったのはそこからだ。

 しばらくは陸上部と一緒に阿武隈川沿いを走ったり、陸上トラックの隅でネットに打ち込んだりした。

 練習に参加できるのは、監督らを含む4人。試合形式はできないが、金野監督は「むしろ毎日千本ノックできますよ」と前向きだ。

 長尾君は「バッティング練習が出来るだけでも楽しいと思えるし、道具を大切にするとか野球が出来る当たり前への感謝を忘れないようにしたい」と言う。

 8月には亘理高との連合チームで秋の県大会に出て、2年ぶりの公式戦出場を果たした。長尾君は「2番・二塁」で先発出場し、八島君は守備で途中出場。ユニホームを着て町を歩いていると、「がんばって」と声をかけられることも多いという。金野監督は「台風にコロナと暗いニュースばかり。伊具高の復活が少しでも町の元気につながれば」と話す。

 次の目標は単独での大会出場だ。長尾君は「部員を集めて、まずは一勝……」。少し間を空け、「夢みたいな話ですけど」と前置きをして、照れながら言った。「いつか、甲子園に行きたい」(大宮慎次朗)

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