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あの夏の八戸学院光星×東邦 観客のタオルグルグルに乗って大逆転 応援引き出した3盗塁

2020年8月19日20時37分

朝日新聞DIGITAL

 手にしたタオルを観客が頭上でグルグルと回す。甲子園球場が、異様な光景に包まれていった。

 2016年の第98回大会2回戦の八戸学院光星(青森)―東邦(愛知)。5―9で東邦が九回の攻撃に入ってからだった。観客の手拍子が響く中、1死二塁で松山仁彦が右前適時打。続く背番号1の藤嶋健人(現中日)が中飛で2死になると、今度はタオルを回す人の姿が広がっていった。

 明るいキャラクターで2年前に1年生ながら甲子園で投げた藤嶋の最後の夏の投球も注目されたが、この試合は三回の途中で降板していた。七回に八戸学院光星が攻撃を終えた時点で点差は7点。それでも、七回に藤嶋の適時打などで2点、八回は高木舜の犠飛で1点と、東邦はあきらめない姿勢を見せていた。

 観客の応援を引き出したのは、果敢な攻撃スタイルもあっただろう。点差を考えると走者をためたいところだが、七回は2盗塁を得点につなげ、九回も先頭で左前安打を放った鈴木光稀が二盗を決めた。

 最終盤の球場は、まさに興奮のるつぼといえる状態だった。2死一、二塁で、高木が左中間に同点二塁打を放つと、あらがえない力に押されるかのように、鈴木理央が左前にサヨナラの適時打を放った。

 当時のスコアブックを開くと、サヨナラの本塁に滑り込んだ高木の言葉があった。「7点差に開いたあと『開き直ってやっていこう』って藤嶋が言った。九回に藤嶋がアウトになっても拍手をしてもらい、タオルを回してもらって、本当にすごい光景だった。打たせてもらった感じ。感動して泣きそうでした」

 選手たちは口々に「応援で打たせてもらった」「応援に乗せてもらった」と話した。森田泰弘監督(現総監督)がこの4月に退任会見を開いたとき、監督生活で印象に残ったことを聞かれると一番最初に挙げたのも、この試合だった。

 「球場全体が、タオルを回していて、応援していただいて。あの光景が頭に残っています」。自身が東邦の主将だった1977年夏には「バンビ」の愛称がついた坂本佳一が1年生エースで決勝まで進んだが、延長十回にサヨナラ本塁打で甲子園の地元・兵庫代表の東洋大姫路に敗れていた。

 「あのときは球場の8割が姫路の応援。まるで電車の高架下で試合をしているような気持ちでした。あのときとまったく違い、これだけ自分たちが応援を受けるということはなかった。思わずベンチから飛び出した。体が震えました」

 一方、八戸学院光星にとっては「全員が敵に見えた」と悪夢として刻まれた。主将の奥村幸太は「相手の気迫と球場の雰囲気にのまれ、最後のアウトを取りきれなかった。自分たちの野球をしようと声を掛け合ったが、勢いを止められなかった。野球の怖さを知りました」。

 負けている側を後押しする応援は、これまでも球児を鼓舞してきた。しかし、大逆転の勝者の裏にも、敗者はいる。ともに夢にまでみた甲子園が、素晴らしい思い出の地として残るような後押しが望まれる。=敬称略(上山浩也)

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