スポブルアプリをダウンロードしよう

  • Sportsbull Android App
  • Sportsbull iOs App

すべて無料のスポーツニュース&動画アプリの決定版!

QRコードを読み込んでダウンロード

Sportsbull QRCode

甲子園決勝、初の満塁HR 無印の公立校が下馬評を覆す

2020年8月19日09時49分

 野球選手なら誰もが「一度は打ってみたい」と思うもの――。それが満塁本塁打だろう。夏の全国選手権で満塁本塁打は通算52本あり、決勝でも3本が記録されている。その最初の1本が飛び出したのは1994年の第76回大会。佐賀商の西原正勝が、大舞台で夢心地の気分を味わった。

 選手権の長い歴史で、九州勢同士による決勝は佐賀商―樟南(鹿児島)戦の一度しかない。この時、大方の予想は樟南の圧倒的優位。樟南には前年の春夏に甲子園で活躍した福岡真一郎―田村恵のバッテリーがいて、大会前から優勝候補に挙げられていた。一方の佐賀商は無印の公立校。田中公士監督は「大差で負けて、決勝戦を壊してしまうのではないか」と心配していたほどだ。

 試合は予想通り、序盤から樟南ペースで進んだ。五回を終えて3―0。エース福岡への信頼は絶大だ。後の取材でも、樟南の選手たちは「先に2点以上取って負けたことは、それまで記憶になかった」と口をそろえていた。

 判官びいきもあっただろう。劣勢でも粘る佐賀商への大声援に押されたかのように、後半は試合の流れが変わっていった。佐賀商の2年生エース・峯謙介が立ち直るのと対照的に、樟南の福岡の球威が落ちていった。

 佐賀商が2度追いつき、4―4で迎えた九回表。佐賀商はスクイズを見破られて失敗しながら、相手のミスによって命拾いする場面があった。勝負に「たら」「れば」は禁物だが、どれかひとつのプレーの結果が違っていても、満塁本塁打はなかっただろう。試合を振り返ると、すべてのプレーが満塁本塁打をお膳立てしているようにも思える。

 2死満塁となって、主将の西原が打席へ。初球から積極的に打つタイプではないが、この打席は違った。

 不思議な感覚だったという。「ボールが投手の手を離れてから少しずつスローモーションになっていったんです」。初球の低め直球に体が勝手に反応した。「試合直後は『直球を狙っていた』と言いましたが、興奮して思わず出た言葉。直球がくる予感はありましたが、本当はなぜ初球から打ったのかも分かりません」

 ボールがバットに当たる瞬間まで、はっきり見えた。打球が左中間席に届く前から西原は右手を突き上げていた。ベンチに戻ると手がぶるぶると震えていたという。「野球人生で一度きりの体験でした」

 マウンドでは、打たれた福岡が両ひざを落としてうずくまった。「強者」と「弱者」が一瞬にして入れ替わったシーンとともに、この一打はより劇的な印象を刻みこむことになった。

 決勝での満塁本塁打は西原の後に2本出ている。2007年に佐賀北の副島浩史、08年には大阪桐蔭の奥村翔馬が打った。いずれも深紅の大優勝旗をもたらしたが、驚くべきは佐賀北の「がばい旋風」だろう。同じ佐賀代表で無印の公立校が、佐賀商をなぞったような戦いぶりをみせた。これもまた、甲子園の持つ不思議な力なのかもしれない。=敬称略(吉村良二)

関連記事

アクセスランキング

注目動画

一覧へ