中京大中京、唯一無敗のチームに 目標かなえたエース
2020年8月12日16時20分
(12日、甲子園交流試合 中京大中京4-3智弁学園)
渾身(こんしん)の1球だった。
同点の九回2死一塁、中京大中京・高橋の直球が外角に決まる。この日最速の153キロ。見逃し三振に倒れた智弁学園の三田は、「手が出ませんでした。バットが届く気がしませんでした」と脱帽した。
智弁学園はその球を狙っていた。「速い球にみんなワクワクしていた」と小坂監督。昨秋のチーム打率3割8分6厘の打線は、150キロ前後の直球に食らいついてきた。3点を追う四回は高橋の制球の乱れに乗じて一気に追いつく。がっぷり四つの展開の中、じりじりと勝機を狙っていた。
高橋は「本調子ではなかった」という。それでも終盤、奮い立つような力投を見せたのは、学校の部室棟の貼り紙に書かれた文字が理由だ。昨秋は「神宮制覇」と書かれていた。実現すると、冬には「選抜優勝」に。最初はただのコピー用紙に仲間が書いたものだったが、「毎日、みんなで目標を共有できるようになった」。
コロナ禍によって選抜大会も全国選手権も中止になると、3年生は「無敗」という文字を選んだ。「うちだけが全国で唯一負けたことのないチームなので」と高橋。特殊な夏を戦う原動力にし、愛知の独自大会で優勝を果たした。
そして、挑んだ高校最後の試合。甲子園のまっさらなマウンドにしゃがみ、土に「心」という文字を刻んだ。「3年生29人で戦うのは最後。心を一つにして戦おう」。最速154キロを誇る直球にその思いを込めていった。
タイブレークに突入した十回も耐えられた。直球で押して走者を釘付けにし、最後は150キロで空振り三振を奪った。「仲間全員の気持ちを背負って投げられた」。目標をかなえる149球だった。(小俣勇貴)