長野)高校野球独自大会を振り返って
甲子園という夢が消えた夏。2020年度夏季高校野球長野県大会が閉幕した。出場した78チームの選手たちは何を思ったのだろう。15日間の熱戦を振り返る。
10日の決勝終了後、整列に佐久長聖の主将、藤原太郎(3年)が最後に加わった。いつも真っ先に並ぶ藤原が泣きじゃくっていた。昨夏の初戦負けから「長聖は勝って当たり前」という重圧を背負い続け、それを果たした達成感だった。
優勝チームは喜ぶのか、甲子園がないことを悔しがるのか。終わってみるまでわからなかった。でも、佐久長聖の選手たちは晴れやかな表情に見えた。
今大会はベンチ入りの20人を入れ替えることができた。「毎年、20人を決める時が最も苦しい瞬間」と藤原弘介監督は言う。3年生52人全員が一度はベンチ入りし、初出場の選手が長打を放つなど、試合ごとにヒーローが誕生した。藤原監督は「甲子園がない夏だから、こうさせてもらいました。今回は本当に全員で勝ち取った優勝です」。
大会があるかもわからないなか、受験勉強で一時的にチームを離れた選手も約20人いた。藤原は「入学からずっと一緒。グラウンドに戻ってきたら分け隔てなんてしません」。そんな選手がヒットを打つと、ベンチは一層盛り上がった。結果的に6試合で計3失点。結束力の高さと抜群の安定感を見せつけた。
ベスト4の上田西、東京都市大塩尻、ベスト8の松商学園、長野日大も3年生中心のメンバーだった。
いつも通り1~3年生で組んだチームもあった。ベスト16の小諸商。4回戦で敗れた後、主将の伊部元貴(3年)は言い切った。「一生懸命やったという達成感がある。3年生だけだったら、こんな気持ちにはならなかったと思う」
昨夏を制した飯山は、伸び伸びと野球を楽しむ姿が印象的だった。エース常田唯斗(3年)は大会屈指の好投手として注目され、計61奪三振。昨秋の水害と冬の雪で、ほとんど練習もできないまま春を迎えた。様々な試練を乗り越え、見事な準優勝だった。
この大会は、第102回全国高校野球選手権大会の記録には残らない。けれど、少なくとも私はこの夏のことを忘れない。(田中奏子)