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甲子園で世紀の転倒 15年間の苦悩、敵味方こえ喜びに

2020年8月8日15時58分

 延長十二回と十六回、2死から同点本塁打が飛び出した。朝日放送の植草貞夫アナウンサーは「甲子園球場に奇跡は生きています」と実況した。直前にファウルフライを追いかけた一塁手が転倒するというドラマもあり、翌日のスポーツニッポン紙上には、作詞家の阿久悠さんの「最高試合」と題した詩が掲載された。

 君らの熱闘の翌日から/甲子園の季節は秋になった

 1979年8月16日、箕島(和歌山)と星稜(石川)の延長十八回は、その書き出しが大げさでないほどの熱闘だった。

 四回に1点ずつ取り合っただけで延長へ。十二回表に星稜が1点を勝ち越し、箕島の攻撃も簡単に2死。春の選抜大会優勝校が、ここで敗退するのか。

 1番嶋田宗彦(元阪神)は打席に向かわず、一塁ベンチに走ってきた。

 「監督、ホームランを打ってきます!」

 「よっしゃ、狙え!」

 尾藤公(ただし)監督は面食らいながらも、そう答えた。

 2球目のカーブをとらえた嶋田の打球は低い弾道のまま、レフトのラッキーゾーンに飛び込んだ。起死回生の予告ホームランだ。

 殊勲の嶋田はベンチに戻り、「長い試合になるな」と思った。予感通り、試合は再び膠着(こうちゃく)状態に陥る。十四回裏には箕島がいわゆる「隠し球」でサヨナラ勝利の好機をつぶされた。アウトになった三塁走者が、十六回裏の主役になる。2年生の森川康弘が、2死から同点本塁打を放ったのだ。

 実は初球を打ち損じ、力ないフライが一塁側ファウルゾーンに上がった。誰もが「終わった」と思った瞬間、星稜の一塁手・加藤直樹が人工芝の切れ目につまずいて転倒してしまう。「つまずいた記憶がないんよ」。このプレーが加藤を長く苦しめることになる。「あれば楽やった。つまずいたんよ、と言えるから」

 命拾いした森川は「思い切り振ろう」と開き直り、同点弾を放つ。だが、森川もこの一発の残像を引きずることになる。「完全な勘違い。狙って本塁打を打てると思ってしまった」。このあと1年間で、本塁打を1本しか打てなかった。

 試合は引き分けになる寸前の十八回、箕島が上野敬三のサヨナラ安打で勝利する。たくさんのドラマを演じた両校は交流を深め、当時のメンバーによる再試合が3度企画された。1回目(94年)では、こんな「奇跡」も。最終回の2死、1点リードの星稜のマウンドには山下智茂監督。箕島の代打・尾藤監督が一塁にフライを打ち上げた。

 「かとお~、捕ってくれー!」。山下監督が叫ぶ中、あの試合で「世紀の転倒」をしてしまった加藤が15年越しのウィニングボールを捕球した。「捕ったな。よかった、よかった」と尾藤監督も駆け寄り、3人で歓喜の輪を作った。

 第100回記念大会(2018年)第2日の「レジェンド始球式」には、箕島の石井毅(元西武=現・木村竹志)が登場。エスコートした球審は十八回を投げ合った星稜の堅田外司昭。思い出のマウンドでがっちり握手を交わした。=敬称略(編集委員・安藤嘉浩)

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