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親元離れ、スマホなしの2年半「僕は最後まで野球を」 

2020年7月24日15時00分

 週末の夜8時ごろ。石見智翠館(島根)の片岡竜玖(りく)(17)は、校舎と寮の間にある電話ボックスに向かう。手には2カ月に一度、両親から送られてくる105度数のテレホンカード。4台並んだ公衆電話は、外との数少ない連絡手段だ。時に順番待ちになる。

 横浜市の自宅にかけると、たいてい母の陽子(47)が出る。「けがの具合は」「練習はやってる」。いつもそんなやりとりだ。

 野球部は携帯電話禁止。校舎とグラウンド、寮が徒歩数十歩の圏内に並ぶ。外出は近くのコンビニくらいだ。

 全員が寮生活を送る。一日の始まりは朝6時。グラウンドでの朝礼で「1日の目標」を叫ぶ。

 3年生42人のうち、片岡を含む38人が県外から来た。当初悩んだのは言葉だった。PL学園出身の監督、末光章朗(あきろう)(50)をはじめ、多くは関西出身。部内では関西弁が飛び交う。「だよね」と言ったら、「気持ち悪いねん」と突っかかられた。「エセや」と言われながらも、関西弁を口にするうちに、仲間と打ち解けていった。

   ◇

 小学4年で野球を始めた。中学で熱中し、寮がある進学先を考えていたとき、知り合いから石見智翠館のことを聞いた。

 同じチームの仲間との2家族で車に乗り込み、見学に行った。交通の便から「東京から一番遠いまち」と言われることもある島根県江津(ごうつ)市だ。

 来てみると、練習のレベルの高さに目を見張った。学校の周りには何もなかった。「他のことを考えず野球に打ち込める」と思った。「学校数が少ない島根なら甲子園に出場できる可能性が高い」という思いもあった。

 高1の夏。先輩たちが県大会の決勝まで進んだ。2年の夏は甲子園に出て、代打でヒットを打った。次は自分たちの代でここに戻ってくる。具体的な目標になった。

 寮の自室にはテレビもパソコンもない。携帯も持たず、コロナはどこか遠い話だった。

 5月20日。グラウンドの一角で、末光から甲子園中止を伝えられた。説明の途中から、末光の声が遠のいていった。

 中止発表から3日間、練習に身が入らなかった。バットを振るとき、グラウンドを走るとき。「何で今こんなことやっているんだろう」と思った。

 「最後までやりたい」「1、2年生中心でやった方がいい」。3年生の中で意見が割れた。末光は3年生一人ひとりと面談した。片岡にはこう言った。「この状態で頑張りきることが、支えてくれた人への恩返しになる。最後まで全うすることが次につながる」

 片岡は「僕は最後までやります」と返した。「大学でも野球を続けよう。さぼったらそこで終わりだ」と思った。

 3年生全員が続けることになった。

   ◇

 午後9時。夕食後、体育館での点呼を終えると、数十歩先のグラウンドへ向かう。ティーバッティング、素振り、体幹トレーニング。2年半続けてきた日課だ。集中しようと、仲間に話しかけられないようにグラウンドの隅に移動することもある。練習帽のつばには「実力の差は努力の差」と書いた。

 野球だけに打ち込めた2年半で、気付いたこともある。洗濯機が使えず、気を抜くと散らかる部屋。これまで両親に支えられてきたことを実感した。今では、実家でも自分から動く。

 迎えた18日の独自大会初戦は、両親は仕事の関係で来られなかった。25日の次戦には来る予定だ。2年半分の成長を見てほしいと思っている。=敬称略(寺尾佳恵)

 ■増える野球留学 過剰勧誘が議論に

 野球のために親元を離れて遠方の学校に進むことは「野球留学」と呼ばれる。

 日本高校野球連盟の調査では、2006年の大会登録メンバーのうち、隣接都府県以外の遠隔地から来たのは1260人。18年には1770人に増えた。流出人数の上位はどちらの年も大阪、兵庫。流入は多い順に06年は愛媛、東京、山形で、18年には島根、静岡、山口に変わった。

 1980年前後から、私学を中心に地元出身選手が少数になる学校が出てきて、過剰な勧誘などが議論になった。少子化の影響で、島根県は近年、地元以外から公立学校の生徒を募集している。

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