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いてほしかった紫のシャツ じいちゃん見てた?打ったよ

2019年8月12日22時09分

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 (12日、高校野球 高岡商4―3神村学園)

 大観衆の中に、いつもの紫のシャツ姿はいない。12日、高岡商(富山)と戦った神村学園(鹿児島)の田中大陸君(2年)は打席に立つたび、空を見上げ「打たせてくれ、じいちゃん」。鹿児島大会の決勝前日に亡くなった祖父の幸山佳津也さん(63)を心に浮かべ、そう願った。

 田中君は鹿児島県の離島、徳之島・伊仙町の出身。スタメン唯一の県内出身者だ。少年野球のコーチだった父の影響で、小1で野球を始めた。

 毎晩、自宅の庭で素振りをしていると、隣に住む祖父が網と材木を組み合わせた打撃練習場をつくってくれた。野球に詳しくなく、口数も少ないが、自宅のリビングのいすに座り、ただじっと練習をみていた。

 田中君が甲子園をめざしたのは中3のとき。名勝負として語り継がれる甲子園の神村学園対明豊(大分)戦をテレビでみた。逆転、再逆転の延長戦に夢中になった。「甲子園の夢がかなう」と、島の高校から、神村学園に進路を変えた。

 入学後、祖父は昼間、携帯の着信記録をよく残した。寮生活では携帯が使える時間は夜だけで、祖父はすでに寝ている時間だった。でも、着信記録を見るたびに「がんばれ」と励まされた気になった。

 今年の正月に帰省したとき、直接感謝を伝えようとした。だが自宅で飼う自慢の闘牛が試合で負け、祖父は部屋に閉じこもっていた。寮へ戻るため空港に向かう車中からかけた電話で「行ってくる」と伝えると、「絶対甲子園行けよ、がんばれよ」。それが最後のやりとりになった。

 遠征先の試合でも公式戦でも、いつもスタンドに来てくれた。目印は薄紫のシャツ。「これ着ると勝つんだ」と縁起をかつぐそのシャツ姿は、この夏の鹿児島大会も初戦からスタンドに陣取った。

 決勝前日。突然、心筋梗塞(こうそく)でこの世を去った。家族は田中君にそのことを隠し、動揺させないように決勝のスタンドのいつもの席には顔立ちが似ている祖父の弟が座った。徳之島の祖父宅では棺の上にテレビが置かれ、親戚たちが応援した。

 甲子園出場を決めた試合の後、球場で小田大介監督(36)から祖父の死を知らされた。急いで島に戻った。棺の中の祖父は、あの紫のシャツを着ていた。倒れたとき、手にしたカバンの中に、自分といとこの球児2人の活躍を伝える新聞記事の切り抜きが入っていた。「甲子園でもみててな」。棺にむかってそう誓った。

 この日の試合、チームは高岡商のエースに四回まで三者凡退に抑えられていた。五回1死の場面で、田中君は中前に初安打を放った。七回にも安打を放ち、憧れの黒土の上を全力で駆けた。

 一塁側アルプス席には、遺影を抱いた祖母の恵美子さん(64)がいた。少しでも活躍する孫の姿を見せようと、背伸びして田中君のいる方へ遺影を向けた。

 試合は最終回の反撃も届かず、1点差で敗れた。「じいちゃんにチャンスでの一本をみせられず、悔しかった」とうつむいた。

 試合後、アルプス席の前で整列する田中君の姿を見た恵美子さんは、握りしめた遺影にそっと語りかけた。「ありがとうね。甲子園の土が踏めましたよ」(合田純奈)

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