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苦しんだ「あの選手」の残像 ついに監督が爆発した

2019年7月14日20時00分

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 自信を持って投じた球をいとも簡単に右翼席に運ばれ、その後の打席は勝負ができなかった。

 松阪(三重県)のエース西尾壮太(3年)は昨夏以降、「あの選手」が打席にいることを意識しながら投げ込みを繰り返してきた。

 昨夏の3回戦で、事前に対策を練ってきた宇治山田商と対戦した。3点をリードした二回、左打席に岡陽基(3年)を迎える。

 切れのある直球を軸にテンポ良く追い込み、決め球に選んだカットボールを内角低めに投じた。ひざ元に鋭く沈むほぼ完璧な球筋だったが、球場に乾いた打球音が響く。打球はあっという間に右翼席上段へ消えていった。

 2打席目はストライクゾーンに投げられず、四球で歩かせた。最後の打席もいきなり外野フェンスを直撃するファウルを打たれ、結局、勝負を避けて歩かせた。試合には勝ったものの、西尾は「もし、2打席とも勝負していたら、どうなっていただろうか」と心残りだった。

     ◇

 あの試合を境に、西尾の投球からは直球で押すスタイルが影を潜め、変化球でかわす組み立てが中心になった。打者としても評価が高い西尾は、これまでホームランを量産してきた。だが、西尾が「狙って打てるものではない」と考えるホームランを、いとも簡単に放った次元の違う岡の打撃を目の当たりにしてから、「打たれることの怖さ」が頭をよぎるようになった。

 監督の上野祐一(36)は、そんな西尾の心の弱さが不満だった。自分より強い相手にこそ立ち向かうべきなのに、逃げる姿勢が見え隠れすることが気に入らなかった。

 上野は、西尾と自分が似ているとも感じていた。上野はとにかく上からいろいろ言われるのが嫌で、文武両立を目指して伊勢に進み、その後、神戸大学大学院で数学を専攻した。中学時代から有望選手として名をはせた西尾は、筑波大学でスポーツ科学を学びたいがために、強豪校からの誘いを断ってまで松阪を選んでいた。

 今春、強豪校との練習試合で、変化球を狙い打たれた西尾は途中で降板する。温厚で選手をめったに叱ることがない上野の我慢は、ここで限界に達した。

 「西尾は自分で考えている」と日頃から理解しているからこそ、覚悟した上で、あえて声を荒らげた。

 「自分の持ち味を出さんかい。直球やろ」

 西尾は黙って聞いていた。

     ◇

 程なく西尾に変化がみられる。広島県に遠征した際に上野が部員全員に書かせたリポートに、西尾はこうしたためた。

 「ホームランを打たれた試合であったけれど、純粋に楽しかったし、あの4番の子と勝負できてよかった」。「なんか忘れたものを思い出した」と締めた。西尾が勝負する姿勢を取り戻したことが、上野はうれしかった。

 あれから1年、西尾は「あの1本」の残像に苦しんだ。一方で、次の一歩を踏み出すきっかけにもなった。

 打者から逃げず、真っ向から勝負することの楽しさに、「あの選手」は改めて気づかせてくれた。この夏は、磨き上げてきた力強い直球で、どんな強打者をもねじ伏せる自信がある。

 もし、「あの選手」と再戦したら――。いや、誰であろうと臆せずに勝負するつもりだ。(敬称略)(村井隼人)

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