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習志野「美爆音」の正体は 震える球場、演奏に極意あり

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2019年3月28日11時25分

 「美爆音」。10年ぶりに春の甲子園で炸裂(さくれつ)した習志野(千葉)吹奏楽部の迫力ある応援演奏の呼び名だ。習志野は「吹奏楽の甲子園」全日本吹奏楽コンクールで23回金賞に輝いた、やわらかく優美なサウンドで知られるが、応援ではまるで「別人」になる。体で感じられるほど強い音圧。思わず笑ってしまうほどの大音量。しかし、不思議と耳に心地よい。「美」と「爆」。とても両立しそうにない二つの漢字をもつ「美爆音」の正体とは?

 それは、習志野と拓大紅陵が準決勝で激突した2009年夏のことだった。

 「千葉マリンスタジアムの椅子がびりびり振動して、とても座っていられないんですよ」。拓大紅陵の吹奏楽部顧問、吹田正人教諭(56)は苦笑した。

 翌年は4回戦で対戦。この時は「途中までおとなしかった」が、4点差を追いついた紅陵が、ついに逆転して迎えた八回裏、習志野のチャンステーマ「レッツゴー習志野」が鳴り響くと、椅子がびりびりと震え出した。そして、習志野が勝利をおさめた。

 習志野高吹奏楽部は、応援演奏では全員参加がモットーだ。部員はいまや200人超。他校に比べて演奏する人数が多いのは確かだが、それだけではなさそうだ。

 「自分たちで爆音なんて言うと、うるさいと言われる。うちの音は、爆音は爆音でも美しい爆音です」

 そう指摘したために「美爆音」の名付け親となった前顧問の瀧山智宏教諭(47、現・船橋芝山高)に解説してもらった。

 「特別なことは何もしていない。限界まで音量を上げているだけです。日頃から、正しい奏法や、きれいな音を出す習慣がついているから、それでも力任せの割れた音は出さない。いや、出せないんです」

 部員たちは、もともと、広く遠く、よく響く音を持っている。楽器のすみずみまで息を吹き込んで、楽器全体を無理なく鳴らす。吹き込む息の強さや量、音の形をそろえる。瞬時に音の高さを微調整し、どの和音もクリアによく響くよう吹く。厳しい基礎練習のたまものだ。もともと響く音を、より強く、思う存分に響かせてつくるのが「美爆音」だ。

 夏の県大会同士がぶつかり、野球応援の後にコンクール本番の演奏をすることすらあるが、応援でも無理な吹き方はしないため、音が割れたり荒れたりという弊害は、ほぼないという。

 「TPOに応じた演奏も大切です」と瀧山教諭。野球応援では野球応援に合う演奏を追求する。2000年から同校吹奏楽部を率いる、野球にも音楽にも造詣(ぞうけい)が深い石津谷治法教諭(60)の「極意」に従い、野外でも聞こえやすいよう短めの音で歯切れよく、野球部員たちが心地よく感じる速さで演奏しているという。

 そして、もうひとつ。

 母校の応援を「阪神戦のすごいうるさい……いや、すごい応援にも劣らぬ音」と評す野球部OBの掛布雅之さん(63)が、気づいていたことがある。「習志野の音はひとつ高いでしょ」

 高い音は低い音より出すのが難しいが、遠くまで響くため、楽譜より1、2オクターブ高い音で吹く人を増やしている。オクターブの違う同じ音を重ねると、響きが増す効果もある。

 「難しくても高い音を出したいのが奏者の性。野球応援で挑戦するうち、きれいな高音が出るようになって、コンクールメンバーに選ばれた部員もいますよ」と野球応援担当の海老澤博教諭(40)。

 さらに思い切り音を出すための工夫も。

 楽譜は暗譜して演奏。指揮者を3人、曲名や繰り返す回数などを記したボードを示す係を4人置き、息をぴたりとあわせて絶妙のタイミングで指示を出してゆく。

 「でも、最後はやっぱり気持ち」と話すのは、指揮者を務める酒井悠歌(はるか)部長(2年)だ。

 昨秋までは、スタンド最後方でスーザホンを吹いていた。グラウンドで躍動する友や先輩を必死で応援するうち、吹奏楽部もバトン部も控えの野球部員たちも、ひとつになる。「ピンチになると、自分でも驚くような大きな音が出る。『スイッチ』があるんです」

 鍛え抜き、工夫を凝らした音に熱い思いが宿るとき、「美爆音」は球場全体を震わせる、強い強い鋼の響きになるのだ。(魚住ゆかり)