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熊本)最後の夏を地域とともに 多良木高校

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2018年7月1日03時00分

 山間の小規模学校ながら甲子園常連の強豪校を何度も脅かしてファンを湧かせてきた多良木高校が、この夏を最後に球場から姿を消す。野球部を誇りにして温かく見守り支えてきた地元の人たちにとっても「最後の夏」となる。

 多良木は、水上村、湯前町、多良木町の3町村で唯一の高校。来春の閉校が決まっている。多い時は千人いたという在校生は今、3年生のみ67人になった。そのうち野球部員はマネジャーを含め24人いる。

 5月末、藤崎台県営野球場で開かれた試合に、町の住民ら46人がバスで2時間かけて応援に駆けつけていた。主に祖父母世代。家族でない人も多い。ピンチになれば手を合わせて祈り、いいプレーに立ち上がって喜ぶ。学校の近くでラーメン屋を営む宮本裕子さん(63)は「相手の応援が多かったら負けとられん、一人でも行かなんと思って行ってしまう」と笑う。

 学校のグラウンドには普段から、家族やOB、町の人たちが差し入れを持ち寄る。マネジャーが書きとめる「差し入れ帳」には「スイカ2玉、トマトたくさん、ゼリー2袋、からあげ・たまごやき、ふりかけ7袋……」。6月は27日までに38件。平野光主将は「今年はすごく多いです」と笑顔だ。

 多良木は斎藤健二郎監督(69)が初めて指揮をとった1978年以降、力をつけてきた。甲子園出場は春も夏もないが、夏は昨年まで6年連続で16強以上。その間、斎藤監督は他校勤務を挟んで校長、監督として計22年間多良木に携わり、プロ野球阪神などで活躍した野田浩司さんや、今春の東京六大学で首位打者の中村浩人選手らを指導した。中村選手がいた2013年には秋の県大会で優勝。既に出ていた閉校の話も「選抜に出られたらなくなるのでは」と住民が期待し応援した。

 多良木町久米の児玉盛光さん(69)は「県立の弱小チームが私立の雄と戦う姿が、徳島の池田高校さわやかイレブンに重なるのかな。成績を残してきたから野球部が象徴的になったんだと思う」と話す。

 宮本さんにチームが愛される理由を尋ねると「町との一体感でしょうね」と話した。斎藤監督の方針の下、野球部は地域の催しに積極的に参加し、設営し、にぎやかす。駅前の公園を掃除する姿は、町の人たちにはおなじみ。グラウンドの近所に住む卸業佐波都代(くによ)さん(70)は選手たちが「あいさつもよくしてくれてかわいい」と話す。別の近所の女性は、倉庫にボールが当たって瓦が何度も割れ、選手たちが謝りに来たがとがめたことはないという。「一生懸命やっているんだからいいの。元気をもらえるから。この子たちがいなくなってしまうと、さみしい」。

 平野主将は地域の人たちの存在を「こころがゆったりできる場所」と表現する。負けたときや監督に怒られたときでも、OBや町の人たちは「気にするな、次頑張れよ」と声をかけてくれる。入学当初はなぜボランティアをするのか疑問に思っていたというが、今はわかる。「試合では応援の人数も多く、どのチームにも負けない応援をしてくれる。愛を感じます」

 1日の開会式で、選手宣誓を務める平野主将。そこには、感謝の言葉を盛りこむつもりだ。

 「おばあちゃんたちに甲子園行ってよ、と言われる。プレッシャーもあるけど、勝って町の人たちに恩返ししたい気持ちの方が大きいです」。初戦は9日。(杉山歩)