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2013年7月11日17時57分
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〈小さな力:上〉愛媛 主将に芽生えた責任感

写真:ミーティングで今後の練習について語る新山拓実君(右)=松山市空港通5丁目拡大ミーティングで今後の練習について語る新山拓実君(右)=松山市空港通5丁目

■選手13人、一球の大切さ共有 済美平成

 今月上旬、松山市にある済美平成のグラウンドにひときわ大きな声が響いた。「それぐらいさばけ」。捕球に失敗した部員に、主将の新山拓実君(3年)が厳しく言い放った。

 望んで務めている主将ではない。「向いてない。唯一の最上級生だから指名されただけ」と思っている。

 昨夏の大会後のことだった。同学年の部員が告げた。「もっといい大学を狙いたいから野球部を辞める」。練習中は仲間を叱咤(しった)激励する頼れる存在。残るよう頼んだが、そのまま退部した。「悔やんでも仕方ない。進学校やから」。部員は新山君と1年生6人だけになった。

 主将になり、秋の県大会に向けて元野球部員の3人に何度も声をかけたが断られた。出場は断念。部員からは「試合に出たいね」と不満が漏れた。

 そのうち練習をサボる部員が出始めた。診察を理由に休んだり、筋力トレーニングをごまかしたり……。しびれを切らした山本篤志監督(28)は新山君に命じた。「ちゃんとさせい」。納得できなかった。「サボる人が悪いのに、なんで自分に?」

 その後も繰り返し同じことを言われ、たまらず母の千鶴さん(47)に言った。「自分はちゃんとやっている。怒られるのはおかしい。野球部も辞めてやる」。涙を流す新山君を千鶴さんは諭した。「あんまり外で愚痴を言っちゃあかんよ。主将なんだから」。もっと強くなろうと思った。

 翌日から、誰よりも一生懸命、練習に取り組んだ。主将は口で言うのではなく行動で示すもの、と思ったからだ。しだいにサボる部員はいなくなり、練習中の声も大きくなった。

 年が明け、松山北から1年生の選手を応援にもらい、連合チームで春の公式戦に参加することになった。2月から「済美平成・松山北」として練習を開始。ただ一人の2年生・新山君が積極的に松山北の選手に話しかけ、仲を深めていった。

 地区予選は松山城南を4―3で、内子を4―2で下して県大会に進出。宇和島南との1回戦、新山君は7回途中からマウンドに上がった。1点リードの9回2死二、三塁、直球を左翼前に運ばれ逆転。連合チームの春は終わった。

 4月、1年生7人が入部し、単独チームで試合ができるようになった。新山君は県大会で学んだ一球の大切さを選手13人全員で共有し、最後まで全力でプレーしたいと思っている。

 最後の夏を前に新山君はエースを任された。「最後まで投げ抜きます」。目には責任感が満ちていた。

     ◇

 第95回全国高校野球選手権記念愛媛大会は、間もなく開幕する。少ない部員の力を合わせて夏に挑む2チームを追った。(この連載は後藤隆之が担当します)

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