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第89回全国高校野球選手権大会

甲子園だより

著者紹介

神田憲行

(かんだ・のりゆき)

1963年、大阪生まれ、ノンフィクション・ライター。大会終了後に発売される週刊朝日増刊「2007 甲子園Heroes(ヒーローズ)」(朝日新聞社刊)の取材のため、 期間中は甲子園通いの日々を過ごす。甲子園取材歴は13年連続14年目。送りバントよりヒットエンドラン派。三つ目のストライクを内角ストレートで取りに来る投手にシビレる。著書に『横浜vsPL学園』(共著、朝日文庫)、『97敗、黒字。』(朝日新聞社刊)、『八重山商工野球部物語』(ヴィレッジブックス)など。

佐賀北、広陵、名勝負!  08月23日

 佐賀北、優勝おめでとうございます!!開幕試合に登場して最後まで残って優勝、「完走V」です。佐賀北が甲子園で戦ったイニング数は73、歴代最多のイニングです。

 広陵・野村投手、7回まで被安打1、与四球2のみ。ほぼ完璧なピッチング。それが8回、ワンチャンスで逆転されてしまいました。そのときの球場の雰囲気は、アルプスから内野席まで佐賀北を押す拍手でいっぱい。佐賀北の選手は拍手に押されるように、野村投手はその拍手の海に埋没してしまったようでした。

 試合前、ブルペンで投球練習をしている野村投手のもとに、広陵・中井監督が歩み寄って、握手をしていました。

「頼むぞ」

 一方そのころ、佐賀北の百崎監督は選手をブルペン前に集めて、観客を見渡すように指示していました。

「こんなにたくさんのお客さんが、お前たちの試合を見に来ている。どっちの応援かわからないお客さんから応援してもらえるような、プレーをしよう」

 試合の展開は両監督が思い描いていたような展開でした。

 8回裏、副島選手に逆転ホームランを打たれたとき、私は祈るような気持ちでマウンドの野村投手を見つめていました。せっかくここまでいいピッチングをしてきたのに、これでおかしくならないように……。でも次の市丸選手の打席、ボールが荒れ出しました。うーん、心配したとおりの展開になってしまうのか……その瞬間、私の耳にラジオの実況中継のアナウンサーの声が飛びこんできました。

「野村投手、落ち着いて 野村投手、落ち着いて」

 それは広陵に肩入れするのではなく、「せっかくここまで良いピッチングをしてきたじゃないか、くじけんなよ」という、試合を見ていた者の気持ちを代弁していたと思います。素晴らしい中継だったと思います。野村投手は市丸選手をサードゴロ。大串選手にライト前ヒットを浴びましたが、次の田中選手を三振に切って終わりました。

 試合終了後の整列で、広陵の林選手が腰を折るぐらいに泣きながらベンチから出てきました。9回表、ヒットで出塁、送りバントで二塁を回って三塁を狙ってタッチアウトになった2年生です。3年生に申し訳ないという気持ちがあったのでしょう、ボロボロに泣いていました。

 でもその林選手の肩を抱いて、笑いながら背中を叩いている広陵の選手の姿がありました。ベンチからホームベースに並ぶときまで、ずっと笑って、励ますように背中を叩いて。たぶん3年生の控え選手かな。この試合で副島選手のホームランと並んで、私の記憶に残る光景でした。

 さて、来年は90回記念大会です。あの松坂大輔の横浜が春夏連覇した80回記念大会から10年、盛り上がることを今から期待しましょう。

 みなさまにお届けしてきた「甲子園だより」も今日で終わりです。ありがとうございました。

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